『山縣さんにとってそれは私には分からんぐらい大きい事で，多分それをもっと仲間と分かち合いたくて……。』
だけどきっとそこには温度差があってそれをもどかしく思っているのかもしれない。
｢気持ちは離れてないと思いますよ？だって高杉さんにとってここはかけがえのない場所でしょ？
ただ今まで頑張り過ぎてこっちに比重を置きすぎたから，ちょっと離れてるだけです。後はよろしくどうぞで離れたんやないですって。休憩です休憩。｣
｢そうやぞ。別に見捨てたんやないんやけぇ。｣
三津と入江がそう言うと，山縣は呑むのをぴたりと止めて俯いた。それからスッと顔を上げてじっと三津を見つめた。三津もその目を真っ直ぐに見つめ返した。
しばらく無言で向かい合っていると，段々と山縣の口がへの字に曲がりだした。
｢うぅ……。嫁ちゃんっ！｣
山縣はぽいっとお猪口を投げると三津に飛び付いた。三津に飛び付いた山縣はぎゅうっと強く抱き締めた。
がたいの良い山縣にきつく抱きしめられた三津は苦しかったが声を出す事も出来なかった。
山縣は何度も嫁ちゃん嫁ちゃんと呟いて，静かになった。それから三津の耳に聞こえてきたのは寝息だった。
『嘘，寝た！？』
山縣の腕の中に埋もれた三津が必死に身を捩ると，入江が面倒臭い奴だとぼやきながら山縣を引っぺがしてくれた。
圧迫感から解放されて見えたのは入江の笑顔だった。
｢苦しかった……。｣
｢三津取り込まれそうやったな。｣
｢何それ，山縣さん妖怪かなんかですか。｣
ただでさえ小柄な三津が，がたいの良い山縣に覆い被さられたら生命の危機さえ感じる。
それを入江は面白おかしく笑っていた。抱き着いてきた事にヤキモチを妬いてるようには見えず，三津は釈然としない。
｢有朋は有朋で，甘える場所がないんやろ。でも三津になら素直になれそうなんやないんかな。｣
入江は引っぺがした山縣を畳に転がした。転がされて大の字になった山縣は，いびきをかき始めた。入江はそんな姿を駄目な弟を見るような目で見ていた。
『九一さん……。』
三津は穏やかに笑みを浮かべる入江を見てから，山縣に視線を落とした。
｢山縣さんも男は弱い部分見せたらアカンって思ってる人ですかね？｣
｢かもしれんな。それと有朋も変なところ真面目なんよ。愚直と言うか何と言うか。｣
三津もその真面目さは，訓練の風景から把握していた。そしてここ最近でさらに理解した。
｢真面目やから……変に責任感とか負っちゃってるんですかねぇ……。｣
｢多分。武人さんの一件以来，有朋の様子が変わった風に見えたそ。どうにかそこを補わんにゃいけんって気ぃ張っとるみたいで。｣ 【平價植髮陷阱】看似吸引的植髮價錢 卻不能忽略的風險！【平價植髮陷阱】看似吸引的植髮價錢 卻不能忽略的風險！
｢そうですね……。その頃から私に対する態度も変わってきたかもしれません。｣
自然と赤禰の立場までこなそうとしてた様に思う。
真面目だから頭の中は奇兵隊の事，長州の先の事，きっとそればっかりで埋め尽くされてたのだろう。
｢それだけ隊の為にやって来て，やっと明るい兆しが見えて本当はもっと歓びを分かち合いたいのに，私や晋作の態度が有朋の求めてるモノと違ったんやろうなぁ。｣
私達は失望されたんやろかと入江は苦笑いで頬を掻いた。
｢失望してたらもっと感情的に二人を責めてると思いますよ？きっともっと自分の考えや意見を押し付けて，こうあるべきやろって喧嘩みたいになってたと思います。｣
それを聞いた入江は微笑んで三津の傍ににじり寄り，寝転がって三津の膝の上に頭を乗せた。｢三津，また負担かけるかも知らんが有朋の事も頼む。｣
目を閉じてうたた寝体勢に入った入江を見下ろして三津は微笑んだ。
｢私にできる事なら任せて下さい。｣
｢ありがとう，もし奇兵隊が失くなっても帰る場所があれば安心やけぇ。｣
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