その頃、桜花は箒

 その頃、桜花は箒を片手に八木邸の門の前にいた。

壬生寺にある桜の花弁が風に乗ってひらひらと落ちてくる。

 

「春だなぁ」

 

ふと脳裏にはあの日に見た桜と吉田の姿が浮かんだ。あれ以来会って無いけれども元気だろうか。そもそもどのような顔をして会えば良いのかも分からなかった。

 

それにここの新撰組の人達にも性別を偽っている。隊士では無いにしろ、嘘だとバレたらどうなるのだろうか。

 

考え出したらキリが無いと首を大きく振り、botox眉心 掃き掃除を再開する。

 

 

「おっ、精が出るこっちゃなぁ」

 

そこへ松原が現れた。巡察帰りなのだろう、後ろにゾロゾロと浅葱の羽織を着た隊士達が続く、

 

「お疲れ様です」

 

桜花は道を開けると頭を下げた。そこへ嬉しそうな声が降ってくる。

 

「あらっ!そこに居るのは…鈴木君ではないですか」

 

目の色を変えた武田が駆け寄ってきた。ゾッと背筋に悪寒が走る。

 

「貴方はまるで桜の精ですね。儚げな姿も美しい…」

 

「えっと…」

 

桜花は困ったように松原を見つめた。丁度目が合った松原はやれやれと溜め息を吐くと、武田に声をかける。

 

「武田はん、そないなことばかりしとると嫌われるで。はよ報告に行かな。土方センセがお待ちでっしゃろ」

 

そう言われた武田は小さく舌打ちをし、無言で歩いて行った。武田は基本的に目上と自身が気に入った見目麗しい隊士にしか興味がなく、同格や目下には厳しい扱いをしている。

 

「あの坊主…いつも私の邪魔ばかり」

 

武田は小声で悪態を吐いた。1番のお気に入りは馬越三郎だが、いつも誰かに邪魔をされる。特に永倉、松原、山南あたりだ。永倉と山南は局長の身内のようなものだから、手は出せない。

出すとすれば、松原あたりが丁度良いはずだ。

 

「やあ、お疲れさん。松原君は隊服が似合うなぁ。流石今弁慶といったところか」

 

丁度廊下で近藤と擦れ違うが、松原のみに声がかかる。それを見た武田は歯噛みをした。

昨年の八月十八日の政変にて、松原は坊主頭に鉢巻、大薙刀を構えていたため今弁慶の異名を与えられたのだ。

 

 

「…弁慶の真似事をしただけではないか。不快な坊主め、いつか目にものを見せてくれる」

 

 

人当たりの良い笑顔を浮かべ、近藤と話す松原の横顔を見ながら、武田は黒い感情を胸に宿す。面白くないと言わんばかりにさっさと部屋へ戻った。巡察の報告をし終わった松原は木刀を片手に桜花の元へやってくる。

 

「桜花はん、壬生寺で隊士らと稽古するんやけど。一緒に来るか。沖田はんと永倉はんも来るで」

 

「行きます。ぜひ御一緒させて下さい」

 

桜花は箒を片付けると、松原の後を追った。このように稽古の誘いをしてくれる隊士は限られていたため、有難かった。

 

 

壬生寺では既に沖田や による指南が行われていた。

試合に勝つためではなく、実践で勝つための剣。

 

稽古であっても臨場感あるそれが、桜花は好きだと感じた。

 

素振りから始まり、軽い試合を行う。

 

「やぁーッ!」

 

桜花は体格差のある永倉と打ち合うが、決して押されることはなかった。

永倉は神道無念流の目録を納めている。神道無念流とは力の剣と言われるほど、力強い打突や上段からの一振りを尊ぶ剣法であった。

そのため永倉の無鉄砲な性格と神道無念流は大変相性が良かった。

 

「オオォォ!」

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