「…と言うより,母上の事を覚え

と言うより,母上の事を覚えてないんで。覚えてるのは父上の背中と傷だらけの右手。」

 

 

三津はそのまま頭に乗った斎藤の手を握った。

 

 

「ここに帰って来る前ね,帰りたくないって駄々こねるなら帰って来るなっておばちゃんに言われてもた。

帰る場所無くなってもたらどうしよ?」

 

 

三津は握った手に少しの力を加えて愛想笑い。【女性生髮藥】女性可否服用保康絲?對生bb有影響? @ 香港脫髮研社 :: 痞客邦 ::

居場所を失うのが怖くて堪らない。

 

 

『甘え方を忘れたコイツは上手く立ち回れないのか,顔には出やすいのにその気持ちを行動でぶつけて来ないのが,女将にはもどかしいのかもな。』

 

 

「気にするな,正月には帰って一緒に初詣に行くんだろ?」

 

 

「あ,そっか初詣があった。

去年は新ちゃんとふくちゃんと行ってん。

新ちゃんが迷子になるなって真ん中に立って手を繋いでくれて,右にふくちゃんで左に私。」

 

 

その時を思い出して三津の顔はふやけた。「恋仲は随分とお前を甘やかしたんだな。」

 

 

すると三津はふやけた表情を引き締め,少し眉を顰めた。

 

 

「そうでもないですよ?

知らない人から贈り物を受け取るなとか,男の人の目を見ながら喋るなとか,色々厳しく叱られました。」

 

 

『恋仲も手を焼いてたか

まぁコイツが人懐こいのも分からんでもない。』

 

 

甘えたい気持ちを抑えてきたのに,看板娘になって周りに人が集まる。

それはもう嬉しくて嬉しくて堪らないに決まってる。

だから新平が気が気じゃないのもよく分かった。

 

 

「だが二人の時はさぞ優しくしてくれたんだろ?」

 

 

その言葉に三津の顔がみるみる赤くなる。

照れ隠しのつもりか,斎藤の手の平に出来たマメを押して目を伏せる。

 

 

「新ちゃんだけやなくて,私の周りに居る人はみんな優しいです。」

 

 

『その優しさも下心と紙一重だといつ気が付くのやら。

いや,気付く事はないかもしれん。』

 

 

憶測でしかないが,二人きりの時以外,新平は妹に注ぐのと同じ様に三津に愛情を注いだんだと思う。

 

 

『だからコイツの中で恋仲じゃない男は手を出して来ない。恋仲じゃない男は家族のように接してくれると思ってるのかもしれん。』

 

 

ここまで無防備なのもどうかと思うがこの姿も自分の前だけだと斎藤は思う。

 

 

自分の手で遊ぶ三津を眺めていたら目が合った。

何か思いついたように光を宿している。

 

 

「そうや,斎藤さんが初詣連れてって下さいよ。」

 

 

「別に構わんが。」

 

 

二人きりだろうか?そうだとしたら,総司がそれを許さないだろうなと顎をさすった。

 

 

『コイツを真ん中にして右に沖田で左に俺か?』

 

 

その姿を想像すると自分でも笑えた。

右に妹,左に三津を従えた新平はどんな心境だったか妙に気になった。

 

 

「来年はどんな年になるかなぁ?まだここで土方さんにこき使われるんかな?」

 

 

『今日見たあの人が吉田さんやったら,またお店に顔出しはるやろか。』

 

 

その時自分が店に居なかったら,彼は何を思うだろうか。

 

 

『桂さんが私は店にはおらへんって伝えはるやろか。』

 

 

色々起こり過ぎた一年が終わる。

新しい年が何をもたらしてくれるか,期待と不安が入り交じる。

 

 

「来年こそは町に帰りたい。そんな顔だな。」

 

 

頬をつつかれて三津はハッとした。

今考えてた事が声になってなかったか,不安で顔が強ばった。三津はその強ばった表情を何とか笑顔に変える。

 

 

「そんな顔になってました?」

 

 

斎藤は無言で頷き三津の頬に何度も指を突き刺す。

 

 

「まぁ確かに京の人間に嫌われてる輩といるよりもあっちにいる方が断然いい。

それにしてもお前の顔は餅で出来てるのか?」

 

 

つるつるモチモチした三津の頬を今度は左右に引っ張ってみる。

 

 

『幾松さんには白玉みたいって言われたな。』

 

 

そのお陰で三津の強ばった笑顔が和らいだ。

 

 

「そんな言い方止めて下さいよ。私はみんなの事好きなんですから。」

 

 

それを聞いて斎藤の頬も緩んだが,聞き捨てならない部分が一つ。

 

 

「みんな?」

 

 

これだけすり寄って来て無防備な姿を晒すと言うのに,好きの度合いがみんなと同じだと言うのか?

 

 

「じゃあ,その中でも。」

 

 

お前の一番は誰だと聞こうとした時。

 

 

「うるせぇっ!」

 

 

斎藤の声は土方の怒声に掻き消された。

じろりと動く視線にに合わせて斎藤の手はゆっくり三津の頬から退いた。

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