今後体調が良くなることは無
今後体調が良くなることは無いし、沖田が戦場を駆け回る日は来ないだろう。それでも近藤がこのように言ったのは、嫌味では無く心からの願望だった。
その思いは触れた大きな手から痛いほどに伝わってくる。
「はい…………」
力なく頷くと、https://plaza.rakuten.co.jp/carinacyril786/diary/202312080000/ 沖田https://blog.goo.ne.jp/mathewanderson/e/b89d9cd9c1b3c0444a83b05b5269959a https://ameblo.jp/carinacyril786/entry-12831761733.html はくるりと背を向けた。
「総司。此処にいるのは危険だから、俺の休息所へ行ってくれるか。話しは通しておくから──」
近藤が言葉を続けると、そこへ忙しない足音と共に部屋の戸が開けられる。現れたのは市村だった。
「おい!取り込み中だ!声くれェかけねえか!」
「す、すみまへん!せやけど、永井様がお見えで……。局長と副長をお呼びでした」
それを聞いた近藤と土方は顔を見合わせると、後ろ髪を引かれながらも出ていく。
戸が閉められた途端に、沖田は力が抜けたようにその場に座り込んだ。
「沖田先生…………」
桜司郎はその前へ膝を着くと、心配そうな声を上げる。沖田は顔を伏せたまま、震える唇を開いた。
「…………大丈夫ですよ。自刃など考えていません。足手まといでも、近藤先生はまだ必要だと言って下さっている。それに……貴女が居るから」
それを聞くなり、桜司郎の中には堪らない程の切なさと愛しさが湧く。死ぬほど辛いはずなのに、生きる理由のひとつに自分を入れてくれているのだ。
そっと手を重ねれば、沖田は顔を上げる。
「……ええ。そうです、私は沖田先生が居ないと生きていけませんから」
「それは困ったな……。意地でも長生きしなきゃいけませんね」
やっと無理のない笑顔を浮かべると、重ねられたその手を寄せて指を絡めた。
手先は冷たいが、手のひらはほんのりと暖かい。血が通っている証拠だ。それに目頭を熱くした桜司郎は、沖田の手の甲を自身の頬に当てる。
「そうですよ、沖田先生。長生きして貰わなきゃ……」
「ふふ……。泣き虫の貴女をひとりにはしたくないですからね」
視線を合わせると、沖田は穏やかに微笑んだ。
グッと胸に浮かぶ思いを抑えて、桜司郎は口を開いた。
「…………必ず。迎えに来ます。貴方が私を安芸まで来てくれたように、何処にでも行きますから……」
「はい。お待ちしております……」
黒雲に覆われた空は、ひたすらに雨を降らせている。別れを告げる僅かな時すら静まることを知らない。
こうして、沖田を京に残したまま新撰組は大坂へ下って行った。 十二月十四日、新撰組は永井に従って大坂天満宮へと入る。
軍議があると言って出ていった近藤と土方が戻って来た。そこで言われたことに納得したのか、行きよりも表情が幾分かは穏やかだった。
「──新撰組は伏見奉行所へ詰めることになった」
折角大坂にまで来たのに、また京へとんぼ返りかと隊士らはザワつく。
だがそれを一蹴した土方によると、こうだ。
伏見には薩摩等の藩邸があり、藩士たちが詰めているのにも関わらず、伏見奉行所は空き屋敷となっているのだ。
薩長の軍勢が大坂へ進軍してくるとなると、京と大坂の中心は伏見であり、そこが激戦区になることが予想される。
そこに新選組を宛てがい、伏見での拠点を作る必要があるという。
しかもこれは将軍自らの提案だというものだから、断る理由は無かった。
まずは監察方の山崎らが偵察へ向かうと云う。それを聞いた桜司郎は、土方の元へ駆けた。
「副長、私も監察方へ同行させて頂けないでしょうか。隊の本陣を伏見奉行所にするというのなら、沖田先生もお連れしたいのです」
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