帰ってきたらさっさ

 

 帰ってきたらさっさと風呂に入って、疲れを癒すべく寝てしまいたいはずで。

 だがそこに冬乃がいれば、一人でいる時とはどうしても勝手が違ってしまうだろう。

 

 

 (だから・・我慢しなきゃ)

 

 

 一方で、

 もしかしたら、international school admission 沖田からすればそんな遠慮は要らないのかもしれない。

 

 冬乃の、この手の遠慮が、

 今なお沖田に対してついつい構築してしまう最大の壁であることも、沖田は分かっているからこそ、

 

 だいぶ想いを素直に口にするようになっているはずの冬乃に、未だに『わがままを言っていいよ』と促してくれるのではないかと。

 

 そんなふうにも、冬乃は感じていて。

 

 

 そもそも沖田なら、冬乃のわがままに応えられない時は応えられないと、断るだけだろう。

 冬乃の側で先に勝手に遠慮して控えてしまう必要など、だから無いのかもしれない。

 

 (でも・・)

 大抵において冬乃が口にしなくても、想いの機微を汲み取ってくれる沖田だからこそ、

 あえて冬乃の想いを汲まない時には、沖田側にそうしない理由がある為なのではとさえ、冬乃は勘ぐってしまうというのに、

 

 それでも冬乃のわがままな希望を、そこへ押し出すのは。

 いくら彼が嫌なら断ってくれるだろうとしても、やはり気が引けてしまう。

 

 今夜は夜番があるから遅くなると。

 

 昼餉の席で沖田に、だから今夜は屯所の自室に寝泊まるように告げられた冬乃は、

 近藤の部屋に戻って書簡の手伝いをしながら、ひどくがっかりしている心の内をこっそり抑えていた。

 

 

 ほんとうは、遅くなってもいいから沖田の部屋で待っていたい。夜もずっとそばにいたい。ふたりの家に帰れなくても、隣で沖田の体温を感じながら眠りたい。

 

 なんてことは、気恥ずかしさもさることながら遠慮の想いに圧されて、とても冬乃には口にできなかった。

 

 

 わがままをもっと言っていいと、昨夜もあんなに愛されながら促されて、それなのにまだ冬乃は留まってしまう。

 

 以前のように、嫌われたりしないかと心配しているわけでは無しに。今の冬乃の自制の最大の原因は、遠慮で。

 

 もしかしたら冬乃がそばにいたら、遅くに疲れて帰ってくる沖田の邪魔になってしまうのではないかと。

 

 

 夜の巡察は、血をみることになる機会が最も多く。

 隊士達を率いる長として当然、誰よりも気を研ぎ澄ませ、たとえ何も起こらなくてさえ疲れることだろう。

 斬り合いなどになってしまえば、尚の事。

 

 

【おしらせ】

 

 いつもあたたかい応援スターをありがとうございます。

 先日にファンさま向けおしらせ欄のほうでちょこっとお伝えさせていただいていたサポーター特典小説をUPしておりますので、ぜひ覘いてみてくださいませ^^v

 ☆数54で設定させていただいてございます。(R18なため、18歳に満たない方はまたも申し訳ありません)

 

 土方さん観察小噺2、沖田さんと冬乃の恋仲バージョンです♪

 あいかわらず食傷こうむっている土方さんでお送りしております。 玄関のほうから聞こえてきた近藤と沖田の声に、冬乃は顔を上げた。

 

 慌てて雑巾を手に立ち上がる。まだ拭き残している部屋の隅へ移りながら、近藤が入ってきたら一度挨拶をするべく入口の襖へと向き直った。

 

 「冬乃さん、ただいま。掃除を有難う」

 まもなく入ってきた近藤と、

 

 「ただいま冬乃」

 その隣の沖田が。

 穏やかな笑みをそして見せてくれるのへ、

 

 冬乃は込み上げた情感で。胸が一杯になりながら、微笑み返した。

 

 

 「おかえりなさいませ」 同時に、そうして導いてくれた沖田へ今あらためて、伝えきれそうになくても感謝を伝えたくなって。

 

 

 (総司さん・・・)

 

 冬乃は、震える息を静かに圧し出した。

 

 

 彼の、この先の短い命を、冬乃は到底受け止める事などできそうにない。

 けれど、そのときまでは彼が生きていることを、知っていることで。一方で、深い安息をも感じている。

 

 

 (貴方がまだ生きていてくれること・・・明日も明後日も、確かにまだ貴方を喪わないでいられること)

 

 それだけで幸せなのだと。もう幾度も胸に懐いてきたその想いを冬乃は、今一度噛み締めた。

 

 

 (・・そのうえ今は)

 

 冬乃の内に秘めた苦しみを、いっとき忘れさせてくれる彼との時間、

 

 そんな奇跡にさえ、恵まれた。

 

 

 その幸せのぶんだけ、迎えるこの先がいっそう辛くなってゆくとしても、

 

 

 結局。冬乃の答えは、以前と変わることはないのだと。

 

 

 (そう・・)

 幾度、そんな苦しみで身を切られる想いに苛まれても。

 

 もういちど出逢えるのなら、何度生まれ変わってでも、

 

 彼の腕のなかへ、また戻ってきたい。

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