無言電話開始か

 

無言電話開始から1週間、倫子は遂に行動を起こす事にした。

 

せっかくの産休、お腹の赤ちゃんとのんびり1ヶ月の予定だったのに、昼寝も邪魔されて夜に早く寝ようとしても邪魔される。

 

ふざけんな、冗談じゃない!お腹の赤ちゃんが寝れないと困る。万が一があったらどうしてくれる!赤ちゃんは私が守るんだ!

 

と言う強い気持ちで動き出す。

 

時間帯はバラバラ、倫也がいない時、一日に一度か二度、これはもう浮気相手か元カノか、良いわよ、いい態度だわ、妊婦だと思って舐めんなよ!受けて立つ!!

 

と倫子は心に決めて、先ずは倫也の行動調査をする事にした。

 

(スケジュールは聞けば教えてくれるし絶対。)

 

そこを誤魔化されたら多分、怪しいが、少しでも怪しいと思えば宇佐美に聞けば会社にいるかいないかは直ぐに答え合わせが出来る。

 

 

電話機のディスプレイから無言電話の番号を控える。

メモを手にピッ、ピッと操作していくと、番号が違う日があった。

 

「全部同じじゃない。昨日の午前中、これは最初の日と同じ番号、でも夜は違う番号だ。」

 

首を捻りながら三つの電話番号をメモして、ネットで登録されている事業所の番号かどうかを検索する。

 

(便利な世の中だ。)

 

個人宅であれば検索は無意味だが、登録されている会社の番号であれば会社名が出る。

何処の会社に勤めているかは確認出来る。

 

勿論、こちらから掛ける事も出来るが、相手が電話に出てしまったら浮気を追求は出来ないし、勧誘電話でしたと謝られてしまったらそこで終わってしまう。

 

先ずは会社か個人か、ひとつくらいは自宅があるのかもしれない、と思いながら検索をした。

 

画面を見て倫子はフリーズする。

 

……もしかしたら、とは思っていたけど。」

 

三つの電話番号の登録事業所は「アクオソリューションズ」、倫也の会社で間違いなかった。

 

倫也のスマホに直接電話をしていた倫子は、会社の代表番号しか知らない。

代表番号は受付に繋がる物で、そこから内線で繋げてくれる。

 

考えてみれば15階から17階に会社が入っていて、衣装部、派遣登録部、派遣部、人材育成部、総務も経理もマッチング部署もある会社内で代表電話一つの訳がない。

 

無言電話の人は間違いなく倫也の会社内に居て、その時いる部屋の電話を使っているんだと倫子は考えた。

 

そこで宇佐美に電話を掛けた。『はい?花上、宇佐美です。』

「お忙しいところすみません。今ってお話しても大丈夫ですか?」

『ええ、構わないわよ?ちょうど少し休憩しようと思ってたとこなの。移動しながら話すけど、いいかな?』

「はい!ありがとうございます。」

 

クスッと笑う宇佐美の声とヒールの音がして、途中、誰かに話しかけてられる声や、誰かの会話してる声も聴こえた。

 

『珍しいわね?仕事中に花上が電話してくるなんて。何かあった?』

ドアが閉まる音が聴こえて、倫子は何処まで話そうかを悩んだが、予定通り、考えていた言葉を口にした。

 

「倫也さんのスマホが電池切れですかね?繋がらなくて。倫也さんのお部屋の電話番号って教えてもらえませんか?」

 

『聞いてないの?まぁ、スマホがあればねぇ。』

少し驚いた声を出してから、それもそうかと納得した声になり、宇佐美はちょっと待ってね、と電話番号を探してくれているのだと分かるので、大人しく待っていた。

 

『言うね。0○□-6812。倫也さんの部屋の直通番号よ。今、外だから掛けてもいないと思う。1時間位後にしたらていうか、帰って来たら捕まえようか?至急?』

「あ、いえいえ、用事という程では。ちなみに倫也さんの秘書の方のお部屋の番号は分かります?」

『秘書?ああ、念の為に教えておこうか。ええっとね……0○□-4322よ。』

 

「うわビンゴ。」

『えっ?何がビンゴなの?』

思わず漏れたひと言を訊き返されて、倫子は慌てて言い訳をした。

 

「あ!それより宇佐美さん、沢木さん、お仕事どうですか?補佐とは連携出来てるか聞いてますか?」

『仕事以外の会話はないらしいわ。花上の時と違ってね。間に合わない書類は自分でやってるみたい。それでも前の加納さん、だったっけ?彼女よりは遥かに使えるって言ってたから大丈夫よ。少しはスローロリスの有り難みを分かればいいと思うわよ?』

 

花上は残り1か月、赤ちゃんを産む事を考えて!と力強く言われて、そうですね、と倫子も返事を返した。

 

「宇佐美さん!私、尼覚悟で、もやを吹き飛ばします!赤ちゃんの為にも無実を勝ち取ります!必ずや勝ってみせます!!」

『はっ?尼って子供産む人が何を言ってるの?何、選挙?裁判?花上?』

「ありがとうございましたぁ!!」

『は?花上〜〜!!』

 

ツーツーと言う音を聞きながら、これは何かあったなと、宇佐美は頭を抱えていた。

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