ただ、控えているソル

ただ、控えているソルティアのみが『そのような下賎の者に身を寄せる事を許されるとは』と言いたげにコメカミに青筋を立てている姿はちょっと笑えるものだった。どれほど、二人はそうしていただろう。「終わったようです。」エレナが静かな口調で言った。「ハンベエが勝ったんだねえ。」「決着はつかなかったようですわ。二つの気は睨み合ったまま動く事なく、一方の気がゆっくりと離れ、去っ行ったようです。」「何だあ、又引き分けかあ。」「引き分けで良いではないですか。あんまりハンベエさんを焚き付けちゃ駄目ですよ。」「うん、分かってるよお、王女様。」エレナの言ったように、ハンベエとテッフネールは睨み合ったまま、どちらも動けずに終わった。と言うより、相撃ちを狙うハンベエにテッフネールが手を出しかねたまま、ただ時間のみが過ぎて行ったのだった。やがて、廊下の燭台に燈されている蝋燭が燃え尽きて消えてしまった。一方が仕掛けるとすれば、この瞬間であったと思われたが、両者は共に動かず、テッフネールは潮時と判断したのか、ハンベエに正面を向けたまま、後ろに下がり、ある程度の距離を取るや身を翻し英文故事書て駆け去って行った。対ハンベエ用に準備した二本目の刀も、ハンベエの捨て身の構えの前に全く無用の長物と化してしまったのであった。 明くる日の朝、王女エレナの前に集まって情報交換を行う『御前会議』は滞りなく、その七回目を迎えていた。『御前会議』──帝の位はいともカシコし、竹のソノウの末葉まで人間の種ならぬぞヤンゴト無しとは吉田兼好の言い回しであるが──貴族のモルフィネスを除けば、ドルバスにしろ、ヘルデンにしろ、下々の身の上、それが雲上人の王女エレナと同席するだに恐懼恐縮、ましてや食事を共にして語り合う等、実際窮屈窮まりない迷惑顔である。その一方で同じ下々の身ながら、ハンベエやロキは平気な様子。まあ、エレナとの付き合いが少々古い事もあるし、何よりふてぶてしいのと図々しいのの名コンビ。さこそありなん。最初の報告は、ハンベエであった。昨日のテッフネールの来襲と撤退を手短かに説明した。今回も引き分けか。」ハンベエの説明が終わると、モルフィネスが言った。特に他意はなく、何と無く相槌ように言っただけのようである。「そうだな。引き分けだ。ま、次には決着が着くだろう。」「勝てるのか?」「勝つとも、テッフネールの事はこのハンベエに任せておいて貰おう。」「ふむ、元より任せる他ないが。」「無礼を承知で聞くが、本当に大丈夫なのか。」モルフィネスとハンベエのやり取りにドルバスが割り込んで言った。ハンベエに顔を正面向けている。真剣な面持ちである。「大丈夫だ。」ハンベエは曖昧さのカケラもない断固たる口調で答えた。その割には少しの気負いも感じさせなかった。ドルバスは頷き、スープを口に運んだ。エレナは何も言わず、そのやり取りを聞いている。穏やかな表情に努めている様子だ。「戦備の方は私の弓隊一万、ドルバス将軍の槍隊二万、既に訓練も十分、何時でも戦える。倍の人数の敵でも大丈夫だ。」モルフィネスは自信を窺わせる平静さで言った後、ロキの方を見た。この時、ロキは例によって本当に幸せそうな、この世でこれ以上幸せな一時はないんだよお、と言わんばかりの顔でパンを口に捩込んでいたが、不意に向けられたモルフィネスの視線に、慌てて咀嚼物を飲み下した。「オイラの方も順調って言うかあ、兵隊さん三万人分の食糧の三ヶ月分揃えたよお。後、パーレルと共同でやってる地図作成作業もほぼ完成だよお。」「地図ができたのか。」

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「そうだ。

をのぞきこんで苦笑する