『山縣さんにとってそれは私には分からんぐらい大きい事で,多分それをもっと仲間と分かち合いたくて …… 。』 だけどきっとそこには温度差があってそれをもどかしく思っているのかもしれない。 「気持ちは離れてないと思いますよ?だって高杉さんにとってここはかけがえのない場所でしょ? ただ今まで頑張り過ぎてこっちに比重を置きすぎたから,ちょっと離れてるだけです。後はよろしくどうぞで離れたんやないですって。休憩です休憩。」 「そうやぞ。別に見捨てたんやないんやけぇ。」 三津と入江がそう言うと,山縣は呑むのをぴたりと止めて俯いた。それからスッと顔を上げてじっと三津を見つめた。三津もその目を真っ直ぐに見つめ返した。 しばらく無言で向かい合っていると,段々と山縣の口がへの字に曲がりだした。 「うぅ …… 。嫁ちゃんっ!」 山縣はぽいっとお猪口を投げると三津に飛び付いた。三津に飛び付いた山縣はぎゅうっと強く抱き締めた。 がたいの良い山縣にきつく抱きしめられた三津は苦しかったが声を出す事も出来なかった。 山縣は何度も嫁ちゃん嫁ちゃんと呟いて,静かになった。それから三津の耳に聞こえてきたのは寝息だった。 『嘘,寝た!?』 山縣の腕の中に埋もれた三津が必死に身を捩ると,入江が面倒臭い奴だとぼやきながら山縣を引っぺがしてくれた。 圧迫感から解放されて見えたのは入江の笑顔だった。 「苦しかった …… 。」 「三津取り込まれそうやったな。」 「何それ,山縣さん妖怪かなんかですか。」 ただでさえ小柄な三津が,がたいの良い山縣に覆い被さられたら生命の危機さえ感じる。 それを入江は面白おかしく笑っていた。抱き着いてきた事にヤキモチを妬いてるようには見えず,三津は釈然としない。 「有朋は有朋で,甘える場所がないんやろ。でも三津になら素直になれそうなんやないんかな。」 入江は引っぺがした山縣を畳に...
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